退職おめでとうございます。しかし、会社を辞めた瞬間から、あなたはこれまで会社が代行してくれていた「社会保険」「年金」「税金」という、生活に直結する重要な手続きの全てを、あなた自身の手で行わなければなりません。これらの手続きには厳しい期限が設けられており、一つでも怠ると、将来受け取る年金が減ったり、医療費が全額自己負担になったり、最悪の場合、資産を差し押さえられたりする甚大な不利益を被る可能性があります。この記事では、あなたがそんな最悪の事態を避け、スムーズに新しい生活をスタートするための、退職後の全手続きの「期限」「窓口」「必要書類」を、専門家の知見に基づき、網羅的な一覧表と詳細な解説でお届けする【完全保存版マニュアル】です。
この記事のポイント
- 退職後の手続きは時間との戦い:健康保険や年金の手続きは「退職後14日以内」など、あなたが思っている以上に期限が短いです。
- 最大の関門は「健康保険」:「任意継続」「国民健康保険」「家族の扶養」の3つの選択肢があり、どれを選ぶかで保険料が大きく変わります。
- 最強の敵は「住民税」:住民税は、収入のない退職後に、前年の高額な所得を基準に請求が来ます。この「時間差攻撃」への備えが不可欠です。
- 手続き場所は「市区町村役場」が中心:多くの手続きは、あなたの住民票がある市区町村の役場で行います。
- 必須アイテムは「離職票」:会社から受け取る「離職票」は、失業保険の申請だけでなく、各種手続きの「退職証明」としても機能する重要書類です。
退職後の手続き・順番・やることマスターリスト

まずは、あなたがやるべきことの全体像を把握しましょう。この表をブックマークするか、スクリーンショットを撮っておくことをお勧めします。手続きには厳格な期限があり、一つでも見落とすと大きな不利益を被る可能性があります。
- 健康保険:3つの選択肢から最適な方法を選択
- 公的年金:国民年金への切り替え
- 雇用保険:失業保険(基本手当)の申請
- 住民税:普通徴収での支払い
- 所得税:確定申告
| 手続きの種類 | 期限 | 主な窓口 | 重要度 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(任意継続) | 退職日の翌日から20日以内 | 協会けんぽ等 | 最重要 |
| 健康保険(国民健康保険) | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村役場 | 最重要 |
| 国民年金への切り替え | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村役場 | 重要 |
| 失業保険申請 | 離職日の翌日から1年以内 | ハローワーク | 重要 |
| 住民税支払い | 通知を待つ | 市区町村役場 | 重要 |
| 確定申告 | 翌年2月16日~3月15日 | 税務署 | 中 |
健康保険 – あなたの選択が、毎月の保険料を数万円変える
退職者が最初に行うべき、最も重要な手続きです。選択肢は3つあり、どれを選ぶかによって、毎月の保険料が大きく変わります。それぞれの特徴を正確に理解し、あなたの状況に最適な選択肢を選びましょう。
選択肢1:任意継続被保険者制度
退職後も、最長2年間、これまで加入していた会社の健康保険に、個人で加入し続ける制度です。
メリット
- 保険料の計算基準(標準報酬月額)が変わらないため、前年の所得が高かった人は、国民健康保険より安くなる可能性が高いです
- 扶養家族がいる場合、家族の保険料は追加でかかりません
デメリット
- これまで会社が半分負担してくれていた保険料が、全額自己負担になるため、在職時の保険料の約2倍になります(上限あり)
- 一度加入すると、原則として2年間やめることができません
手続き:期限は退職日の翌日から20日以内、窓口は加入していた健康保険組合(協会けんぽ等)。注意点として、在職中に2ヶ月以上、被保険者であったことが加入条件です。
選択肢2:国民健康保険(国保)への加入
市区町村が運営する健康保険に、新たに加入します。
メリット
- 会社の倒産や解雇など「会社都合」で退職した場合、保険料が大幅に軽減される制度があります(前年の給与所得を30/100として計算)
- 所得が低い場合や、扶養家族がいない場合は、任意継続より安くなることがあります
デメリット
- 保険料は前年の所得を基に計算されるため、退職1年目は高額になりがちです
- 扶養という概念がないため、家族一人ひとりについて保険料がかかります
手続き:期限は退職日の翌日から14日以内、窓口はお住まいの市区町村役場の国民健康保険担当窓口。必要書類は健康保険資格喪失証明書(会社から発行)、本人確認書類、マイナンバーカードなど。
選択肢3:家族の健康保険の被扶養者になる
配偶者や親など、生計を同一にする家族が加入している健康保険の、被扶養者として加入します。
メリット:あなたの保険料負担は、一切ありません(0円)。
デメリット:あなたの年間収入が130万円未満(60歳以上は180万円未満)でなければならず、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である、といった厳しい収入制限があります。
手続き:期限は速やかに、窓口は家族の勤務先の社会保険担当部署。必要書類は離職票や収入証明書など、家族の会社が指定する書類。
【結論:どれを選ぶべき?】
まずは、お住まいの役所で「国民健康保険料」がいくらになるか試算してもらい、会社の健康保険組合に「任意継続」の保険料を確認しましょう。その2つの金額を比較し、安い方を選ぶのが最も合理的です。もし、家族の扶養に入れる条件を満たしているなら、それが最も経済的な選択となります。
年金 – 空白期間を作らないための国民年金切替
会社員時代に加入していた「厚生年金」から、20歳以上60歳未満の全ての国民が加入する「国民年金(第1号被保険者)」への切り替え手続きが必要です。この手続きを怠ると、将来の年金受給に大きな影響を与える可能性があります。
なぜ国民年金への切り替えが必要?
この手続きを怠り、保険料を納めない「未納期間」があると、将来受け取れる老齢基礎年金の額が減ってしまうだけでなく、万が一の際の障害年金や遺族年金が受け取れなくなる可能性があります。年金制度は将来の生活保障の基盤となるため、絶対に空白期間を作ってはいけません。
手続きの詳細
- 期限:退職日の翌日から14日以内
- 窓口:お住まいの市区町村役場の、国民年金担当窓口
- 必要書類:年金手帳または基礎年金番号通知書、離職票など退職日がわかる書類、本人確認書類
- 保険料:月額16,980円(令和6年度)
収入が減少し、支払いが困難な場合は、保険料の免除・納付猶予制度がありますので、必ず窓口で相談してください。未納のまま放置するのは最悪の選択です。
住民税 – 退職者を襲う「時間差攻撃」の罠
退職後の手続きで、最も多くの人が「こんなはずじゃなかった」と驚くのが、住民税です。この「時間差攻撃」を理解し、適切に備えることが重要です。
住民税の基本ルール:前年所得課税
住民税は、「前年1月1日~12月31日」の所得に対して計算され、「翌年6月~翌々年5月」にかけて支払います。つまり、あなたが退職して収入がゼロになったとしても、バリバリ働いていた前年の高い所得を基準にした、高額な住民税を支払う義務があるのです。
退職月によって支払い方法が変わる
1月1日~5月31日に退職した場合
その年の5月分までの住民税が、最後の給与や退職金から一括で天引きされます。
6月1日~12月31日に退職した場合
退職した月までの分は給与から天引きされますが、翌年5月分までの残りの住民税は、後日、市区町村から送られてくる納付書(普通徴収)を使って、自分で支払う必要があります。
この「普通徴収」の納付書が、忘れた頃に自宅に届き、その金額の大きさに愕然とすることが多いのです。退職後の生活費シミュレーションには、この住民税の支払いを必ず組み込んでおきましょう。
【関連】 この住民税の支払いが、家族に退職がバレる原因になることも…。 ➡️家族にバレずに退職する方法【プライバシーを守る完全ガイド】
雇用保険と確定申告
最後に、雇用保険(失業保険)と所得税(確定申告)の手続きについて確認しておきましょう。これらも退職後の重要な手続きです。
雇用保険(失業保険)
退職後の生活を支える、最も重要な収入源です。手続きはハローワークで行います。離職票の受け取り後、速やかに申請することが重要です。給付開始までには一定の期間があるため、早めの手続きが必要です。
【関連】 失業保険の受給額、期間、手続きの全ては、こちらの記事で徹底的に解説しています。 ➡️ 失業保険はいつからいくらもらえる?申請手続きと受給額計算法
所得税(確定申告)
年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合、翌年に自分で確定申告を行う必要があります。在職中は、毎月の給与から所得税が多めに天引き(源泉徴収)されているため、確定申告をすることで、払い過ぎた税金が還付金として戻ってくる可能性が高いです。
- 期限:退職した翌年の2月16日~3月15日
- 窓口:税務署、または国税庁のサイト(e-Tax)
- 必須書類:会社から受け取る「源泉徴収票」
| 手続き項目 | 期限 | 必要書類 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(任意継続) | 20日以内 | 申請書、本人確認書類 | 2年間継続が原則 |
| 健康保険(国保) | 14日以内 | 資格喪失証明書、本人確認書類 | 前年所得で保険料決定 |
| 国民年金切り替え | 14日以内 | 年金手帳、離職票 | 未納期間を作らない |
| 失業保険申請 | 1年以内 | 離職票、雇用保険被保険者証 | 早期申請が重要 |
| 確定申告 | 翌年2-3月 | 源泉徴収票 | 還付の可能性あり |
よくある質問
- 退職後、すぐに転職先が決まっています。それでも、これらの手続きは必要ですか?
-
いいえ、退職日の翌日に、間を空けずに転職先に入社する場合は、健康保険や厚生年金の手続きは、全て新しい会社が行ってくれます。あなた自身で役所に行く必要はありません。
- 手続きに必要な「健康保険資格喪失証明書」を、会社がなかなか発行してくれません。
-
会社には、この証明書を発行する義務があります。もし、発行を渋るようであれば、年金事務所に相談することで、代行して発行してもらうことも可能です。
- 海外に転出する場合、手続きはどうなりますか?
-
日本の市区町村役場に「海外転出届」を提出すれば、その時点で国民健康保険や国民年金の加入義務はなくなります。住民税も、その年の1月1日時点で日本に住所がなければ、課税されません。
まとめ:手続きは、新しい自由を手に入れるための「儀式」
退職後の行政手続きは、複雑で、面倒で、期限に追われる、ストレスの多い作業です。しかし、これは、あなたが「会社員」という立場から解放され、自律した一人の個人として、社会と直接向き合うための、大切な「儀式」でもあります。
この記事を「儀式のしおり」として、一つひとつの手続きを、漏れなく、そして確実に完了させてください。全ての義務を果たし終えた時、あなたの前には、何の不安もない、本当の意味で自由な新しい生活が待っているはずです。
■ 公式/参考URL一覧
- 日本年金機構 – 会社を退職した時の国民年金の手続き
- 国民年金の切り替え手続きに関する、最も正確で信頼性の高い情報源として参照。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)- 退職後の健康保険
- 健康保険の選択肢(任意継続、国民健康保険など)について、公的な立場からの解説を参照。
- 総務省 – 個人住民税
- 住民税の「特別徴収」と「普通徴収」の仕組みについて、その制度を所管する総務省の公式な解説を基に、正確な情報を提供するために参照。

