「忙しいから」「みんな取ってないから」といった理由で、有給休暇の取得を諦めていませんか?結論から断言します。労働者が希望する日に有給休暇を取得させない会社の行為は、原則として「違法」です。なぜなら、有給休暇は、会社が与える「恩恵」ではなく、法律で定められた労働者の「正当な権利」だからです。この記事では、あなたがその権利を100%行使するために必要な法的知識から、明日から使える具体的な取得テクニック、そして退職時に残った有給を完全に消化しきる最強の方法まで、専門家の視点から徹底解説します。
この記事のポイント
- 有給取得は「権利」:労働基準法第39条で保障された、労働者の当然の権利です。会社の「許可」は必要ありません。
- 会社の拒否は原則「違法」:会社が有給取得を拒否できるのは、事業の正常な運営を妨げる、極めて例外的な場合のみです。
- 理由は「私用」でOK:有給取得の際に、詳細な理由を説明する義務は一切ありません。
- 年5日の取得は会社の「義務」:2019年の法改正により、会社は年10日以上の有給が付与される労働者に対し、年5日は確実に取得させなければならなくなりました。
- 退職時の有給消化は100%可能:退職時には、会社は有給取得を拒否できません。残った有給は全て消化できます。
- 「買い取り」は原則NG:有給休暇の買い取りは、退職時など例外的なケースを除き、原則として認められていません。
なぜ「有給取れない」が違法なのか?法的根拠
あなたの権利を主張するためには、まずその根拠となる法律を知ることが不可欠です。有給休暇は労働基準法第39条によって定められており、これがあなたの最強の武器となります。
- 6ヶ月以上継続して勤務し
- 全労働日の8割以上出勤した労働者に対して
- 会社は最低10日の有給休暇を与えなければならない
あなたの最強の武器「労働基準法第39条」
重要なのは、この権利は、あなたが「請求」した日に与えなければならないと定められている点です。これを労働者の「時季指定権」と呼びます。つまり、「〇月〇日に休みます」とあなたが指定すれば、その日に休む権利が発生するのです。会社の「許可」や「承認」を必要とするものでは、本来ありません。付与日数は勤続年数に応じて増えていきますが、基本的な権利の性質は変わりません。
会社の唯一の対抗手段「時季変更権」
では、会社は絶対に有給取得を拒否できないのでしょうか?唯一、会社側が対抗できる権利として「時季変更権」というものがあります。これは、「あなたが指定した日に休まれると、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、会社は他の時季に変更してもらうことができる」というものです。
しかし、この「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、裁判例などを見ても、極めて厳格に解釈されています。「繁忙期だから」「代わりの人員がいないから」といった、単なる人手不足や、会社の恒常的な事情だけでは、時季変更権の行使は認められません。認められるのは、「その労働者でなければ遂行できない業務が、その日に予定されており、かつ代替要員の確保が客観的に見て著しく困難な場合」など、非常に限定的なケースのみです。
2019年法改正で強化された有給取得義務
2019年の法改正により、会社は労働者に「年5日の有給」を取得させることが義務化されました。これは年10日以上の有給が付与される労働者すべてが対象となります。つまり、会社側にも有給を取らせる責任があるということです。もし会社がこの義務を怠った場合、労働基準法違反として罰則が科される可能性があります。
明日から使える!スマートな有給取得テクニック集
法的知識で武装したら、次は実践です。周囲との軋轢を避けつつ、スマートに有給を取得するためのテクニックを、難易度別に紹介します。
- 初級編:王道の申請テクニック
- 中級編:周囲を味方につける交渉術
- 上級編:退職時に100%消化する最強の方法
初級編:王道の申請テクニック
テクニック1:「相談」ではなく「報告」の形で申請する
- NG例:「〇月〇日、お休みをいただいてもよろしいでしょうか…?」
- OK例:「〇月〇日、私用のため、年次有給休暇を取得させていただきます。」
「よろしいでしょうか?」と聞くと、相手に「NO」という選択肢を与えてしまいます。権利を行使するのですから、毅然とした「報告」の形で伝えましょう。
テクニック2:理由は「私用のため」で貫き通す
上司から「何に使うんだ?」としつこく聞かれても、詳細を答える義務はありません。「家の用事がありまして」「少しリフレッシュしたく」など、当たり障りのない範囲で答え、「私用のため」で押し切りましょう。
テクニック3:繁忙期を避け、早めに申請する
法律上は直前の申請でも有効ですが、円滑な人間関係を保つためには、会社の繁忙期を避け、できるだけ早めに(1~2週間前には)申請するのが社会人としてのマナーです。
中級編:周囲を味方につける交渉術
テクニック4:業務の引き継ぎ・調整を完璧に行う
「私が休んでも、業務に支障はありません」という状況を、自ら作り出すのが最も効果的です。申請時に「〇〇の件は△△さんにお願いしてあります」「当日の緊急連絡は□□までお願いします」と一言添えるだけで、上司の不安を払拭できます。
テクニック5:「会社の義務」をそっとリマインドする
2019年の法改正により、会社は労働者に「年5日の有給」を取得させることが義務化されました。もし、あなたの上司がこの義務を知らないようであれば、「法改正で、年5日は取得が義務になったと聞きましたので、計画的に取得させていただきます」と、会社の義務であることを根拠に申請するのも有効です。
上級編:退職時に100%消化する最強の方法
退職を決意した場合、残った有給休暇は、あなたの最後の、そして最強の権利となります。なぜなら、退職時には、会社は「時季変更権」を行使できないからです。「事業の正常な運営を妨げる」からといって、既に退職することが決まっているあなたに「別の日に休んでくれ」とは言えません。
テクニック6:退職届と同時に、有給休暇取得申請書を提出する
退職の意思を伝え、退職日が確定したら、最終出社日から退職日までの全労働日を有給休暇として申請します。(例:9月30日を退職日とし、9月15日を最終出社日に設定。9月16日~30日までの労働日を有給で消化する)
テクニック7:「引き継ぎ」をカードに交渉する
もし会社が有給消化に難色を示したら、「残った有給を全て消化させていただくことを条件に、後任者への引き継ぎを完璧に行います」と交渉しましょう。ほとんどの会社は、スムーズな引き継ぎを優先し、有給消化を認めざるを得ません。
【関連】 退職時の交渉術について、さらに詳しく知りたい方はこちら。 ➡️ 退職日が決まらない時の交渉術【会社都合vs自己都合の違いも解説】
【関連】 退職手続き全体の流れを確認しておきましょう。 ➡️ 【初心者向け】退職手続きの流れと必要書類チェックリスト完全版
よくある疑問とトラブルシューティング
有給休暇に関する疑問や不安を解消し、適切に権利を行使するための知識を身につけましょう。法律で守られた権利であることを改めて確認し、自信を持って有給を取得してください。
- 有給休暇の「買い取り」はしてもらえますか?
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原則として、有給休暇の買い取りは法律で認められていません。なぜなら、有給は労働者の心身をリフレッシュさせることが目的であり、お金に換えることはその趣旨に反するからです。ただし、退職時に消化しきれずに残ってしまった有給や、法律で定められた日数を超える会社独自の休暇については、会社との合意の上で買い取ってもらうことは可能です。
- パートやアルバイトでも、有給はもらえますか?
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はい、もらえます。雇用形態に関わらず、「6ヶ月以上継続勤務」し、「全労働日の8割以上出勤」していれば、所定労働日数に応じた日数の有給休暇が付与されます。
- 申請したら、嫌な顔をされたり、評価を下げられたりしませんか?
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有給取得を理由に、給与を減らしたり、人事評価を下げたりといった不利益な取り扱いをすることは、法律で禁止されています。もし、そのような嫌がらせを受けた場合は、パワハラに該当する可能性があります。
有給取得に関する追加の重要なポイント
- 半日単位・時間単位での取得:会社が制度を導入していれば、半日や時間単位での有給取得も可能です
- 有給の時効:有給休暇には2年の時効があります。取得しなかった有給は2年後に消滅します
- 計画的付与制度:会社が年5日を超える日数について、計画的に有給の時季を指定することができる制度もあります
- 有給中の賃金:有給取得日の賃金は、平均賃金・所定労働時間労働した場合の賃金・健康保険の標準報酬日額のいずれかで支払われます
【関連】 権利を主張したことで嫌がらせを受けた場合は、証拠を集めて対処しましょう。 ➡️ 退職時の嫌がらせ・圧力への対処法【録音・証拠保全の方法も】
どうしても有給が取れない時の最終手段
あらゆるテクニックを駆使しても、会社が違法に有給取得を拒否し続ける場合は、一人で戦う必要はありません。適切な相談先に助けを求めることで、状況を改善できます。
- 労働基準監督署への相談:労働基準法違反の疑いがあると判断されれば、会社に対して調査や是正勧告を行ってくれます
- 弁護士への相談:有給だけでなく、未払い残業代など、他の労働問題も抱えている場合に有効です
- 退職代行サービスの利用:ブラックな環境に限界を感じているなら、退職と有給消化の交渉を全てプロに任せることも可能です
労働基準監督署に相談する
全国に設置されている、労働者のための公的機関です。労働基準法違反の疑いがあると判断されれば、会社に対して調査や是正勧告(指導)を行ってくれます。相談は無料で、匿名でも可能です。有給取得を拒否されている事実を具体的に説明し、労働基準法違反の可能性を相談しましょう。
弁護士に相談する
有給だけでなく、未払い残業代など、他の労働問題も抱えている場合に有効です。弁護士の名前で会社に通知を送るだけで、会社の態度が軟化することも少なくありません。初回相談無料の法律事務所も多いので、まずは相談してみることをお勧めします。
退職代行サービスを利用する
有給が取れないようなブラックな環境に、もはや限界を感じているなら、退職代行サービスを利用して、退職と有給消化の交渉を全てプロに任せるのも、賢明な選択です。特に労働組合が運営する退職代行サービスなら、有給消化について会社と交渉することも可能です。
【関連】 有給が取れない会社は、他の面でも問題を抱えている可能性があります。 ➡️ サービス残業・長時間労働で限界!ブラック企業から脱出する方法
【関連】 退職代行について詳しく知りたい方はこちら ➡️ 退職代行とは?利用すべき人の診断チェックと基本知識
勤続年数 | 付与日数 | 年5日義務対象 | 注意点 |
---|---|---|---|
6ヶ月 | 10日 | ○ | 継続勤務・8割出勤が条件 |
1年6ヶ月 | 11日 | ○ | 前年度から1日増加 |
2年6ヶ月 | 12日 | ○ | 継続的な増加パターン |
3年6ヶ月 | 14日 | ○ | 2日増加 |
4年6ヶ月 | 16日 | ○ | 2日増加 |
5年6ヶ月 | 18日 | ○ | 2日増加 |
6年6ヶ月以上 | 20日 | ○ | 上限に到達 |
まとめ:有給は、あなたの心と体を守るための「盾」
有給休暇は、あなたが人間らしく、健康に働き続けるために、法律が与えてくれた強力な「盾」です。「忙しいから」「周りに悪いから」と、その盾を自ら手放す必要はありません。
この記事で得た正しい知識とテクニックを武器に、堂々とあなたの権利を行使してください。計画的に休み、心身をリフレッシュさせることが、結果的にあなたの仕事のパフォーマンスを高め、より豊かなキャリアを築くための、何よりのエネルギー源となるはずです。
■ 公式/参考URL一覧
- e-Gov法令検索 – 労働基準法
- 年次有給休暇の権利を定めた、最も基本的な法的根拠として参照。
- 厚生労働省 – 年次有給休暇の時季指定義務
- 2019年の法改正による「年5日の取得義務」について、厚生労働省の公式なQ&Aを基に、正確な情報を解説するために参照。
- 厚生労働省 – 確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト
- 有給休暇をはじめとする労働条件に関するトラブルについて、公的な相談窓口(労働基準監督署など)の情報を正確に提供するために参照。