退職後の生活を支える最も重要なセーフティネット、それが「失業保険(正式名称:雇用保険の基本手当)」です。あなたが抱える「一体、いつから、いくらもらえるの?」という疑問への答えは、あなたの「退職理由(自己都合か会社都合か)」と「退職前の給与額」によって大きく変わります。自己都合退職の場合、給付開始は最短でも約2ヶ月後から。会社都合退職であれば、約1週間後から受け取れます。受給額は、退職前6ヶ月間の給与のおおよそ50~80%が目安です。この記事では、あなたがこの複雑な制度を完全に理解し、受け取れる金額を1円でも多く、1日でも早く手にするための、具体的な受給額の計算方法から、ハローワークでの申請手続きの全手順まで、専門家の知見を基に徹底的に解説します。
この記事のポイント
- 失業保険はあなたの「権利」:これまで雇用保険料を支払ってきた労働者のための、正当な権利です。遠慮なく活用しましょう。
- 受給資格をまず確認:原則として「離職日以前2年間に、被保険者期間が12ヶ月以上ある」ことが条件です。
- 「会社都合」か「自己都合」かで天と地の差:給付が始まるまでの期間と、もらえる総額が劇的に変わります。ここが最大のポイントです。
- 受給額は「退職前の給与」で決まる:直近6ヶ月の給与を基に、「基本手当日額」が算出されます。
- 手続きは「ハローワーク」で:退職後に会社から受け取る「離職票」を持って、あなたの住所を管轄するハローワークへ行くことから全てが始まります。
- 再就職すれば「お祝い金」も:早く再就職が決まると、残り日数に応じて「再就職手当」が支給されます。
失業保険(雇用保険の基本手当)の基本の「き」

まず、基本的なルールを理解しましょう。失業保険の正式名称は「雇用保険の基本手当」ですが、一般的には失業保険と呼ばれています。
- 失業保険とは何か:失業中の生活を心配することなく、新しい仕事を探し、1日も早く再就職できるよう、国が経済的な支援をしてくれる制度
- 原資:あなたが在職中に支払っていた「雇用保険料」が、その原資となっています
- 受給の権利:条件を満たせば受け取る正当な権利があります
失業保険とは?
失業中の生活を心配することなく、新しい仕事を探し、1日も早く再就職できるよう、国が経済的な支援をしてくれる制度です。あなたが在職中に支払っていた「雇用保険料」が、その原資となっています。つまり、これはあなたが働いていた時にコツコツと積み立ててきた、いわば「保険」なのです。遠慮する必要は一切ありません。
受給するための「3つの条件」
失業保険は、誰でももらえるわけではありません。以下の3つの条件を全て満たしている必要があります。
- 雇用保険に加入していたこと:原則として、離職日以前2年間に、被保険者期間(給与支払いの基礎となった日数が11日以上ある月)が通算して12ヶ月以上あること
- 失業の状態にあること:働く意思と能力があるにもかかわらず、就職できない状態にあること
- ハローワークで求職活動を行っていること:積極的に仕事を探しているという実績が必要です
【注意】専業主婦(夫)になる、学業に専念する、しばらく休養したい、といった「働く意思がない」場合は、受給資格がありません。
「自己都合」vs「会社都合」で、もらえる額と期間が劇的に変わる!
ここが、失業保険制度における最も重要な分岐点です。あなたの退職がどちらに分類されるかで、あなたの生活設計は大きく変わります。この違いを正しく理解することが、失業保険を最大限活用するための鍵となります。
| 項目 | 自己都合退職 | 会社都合退職(特定受給資格者) |
|---|---|---|
| 具体例 | ・キャリアアップのための転職 ・結婚、引越し | ・会社の倒産、解雇 ・退職勧奨 ・ハラスメントによる離職 ・給与の大幅な減額、未払い |
| 給付開始までの期間 | 7日間の待期期間 + 2ヶ月間の給付制限 =最短でも約2ヶ月と7日後 | 7日間の待期期間のみ =約1週間後から |
| 最大給付日数 | 90日~150日 | 90日~330日 |
| 国民健康保険料 | 減免措置なし | 減免措置あり |
会社都合退職の圧倒的なメリット
ご覧の通り、会社都合退職の方が、圧倒的に有利です。もし、あなたが上司からのパワハラや、執拗な退職勧奨が原因で辞める場合、それは「自己都合」ではなく、正当な「会社都合」として認められる可能性があります。安易に「一身上の都合」と書かれた退職届にサインする前に、必ず証拠を集め、ハローワークや専門家に相談してください。
自己都合退職でも会社都合に変更できるケース
- 上司・同僚からのいじめ・嫌がらせ:パワハラやセクハラの事実が証明できる場合
- 賃金の大幅減額:従来賃金の85%未満となった場合
- 労働条件の大幅な変更:就業場所の変更、職種の変更等
- 残業時間の大幅増加:離職直前6ヶ月のうち3ヶ月で月45時間を超える場合
【関連】 会社都合を勝ち取るための交渉術 ➡️ 退職日が決まらない時の交渉術【会社都合vs自己都合の違いも解説】
【関連】 パワハラが原因で辞める場合の全知識 ➡️ パワハラで仕事辞めたい時の証拠集めと相談先【完全対策マニュアル】
あなたの受給額はいくら?簡単3ステップ計算シミュレーション
では、実際にあなたが「1日あたり、いくらもらえるのか」を計算してみましょう。少し複雑ですが、手順通りに進めれば大丈夫です。
- STEP1:「賃金日額」を計算する
- STEP2:「基本手当日額」を計算する
- STEP3:総受給額を計算する
STEP1:「賃金日額」を計算する
まず、あなたの給与水準を日額に換算します。賃金日額 = 離職前6ヶ月間の給与合計 ÷ 180
※給与には、残業代などの各種手当は含みますが、ボーナスは含みません。通勤手当や住宅手当なども含まれます。
STEP2:「基本手当日額」を計算する
次に、賃金日額に、年齢に応じた給付率(50~80%)を掛けて、1日あたりの支給額を算出します。給付率は、賃金が低い人ほど高くなるように設定されています。
基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(50~80%)
※基本手当日額には、年齢区分ごとに上限額と下限額が定められています。(毎年8月1日に改定)
【簡単計算】 複雑な給付率の計算をしなくても、おおよその金額は「賃金日額 × 0.5 ~ 0.8」の範囲に収まると考えておけば、大きなズレはありません。
STEP3:総受給額を計算する
最後に、1日あたりの支給額に、あなたの給付日数を掛ければ、もらえる総額が分かります。総受給額 = 基本手当日額 × 所定給付日数
※所定給付日数は、あなたの年齢、雇用保険の被保険者期間、退職理由によって90日~330日の間で決まります。
【モデルケース・シミュレーション】
30歳、勤続5年、退職前6ヶ月の月給平均30万円(ボーナス除く)で自己都合退職した場合
- 賃金日額:(30万円 × 6ヶ月) ÷ 180 = 10,000円
- 基本手当日額:約5,000円~6,000円(給付率50~60%と仮定)
- 所定給付日数:90日
- 総受給額:約5,500円 × 90日 = 約495,000円
申請から初回振込までの全手続きフロー
失業保険の申請から受給開始まで、いくつかのステップがあります。各段階を正確に理解し、スムーズに手続きを進めましょう。
1. 退職後、会社から「離職票」を受け取る(通常10日前後)
これがなければ、何も始まりません。離職票は正式には「雇用保険被保険者離職票-1」「雇用保険被保険者離職票-2」の2枚セットです。会社には離職日の翌日から10日以内にハローワークに提出する義務がありますが、あなたの手元に届くまでにはもう少し時間がかかります。
【関連】 万が一、離職票が届かない場合はこちら ➡️ 離職票が来ない・源泉徴収票もらえない時の催促方法と対処法
2. 自分の住所を管轄するハローワークへ行く
必要書類を持参し、「求職の申込み」と「受給資格の決定」手続きを行います。必要な書類は以下の通りです。
- 離職票(1・2)
- マイナンバー確認書類
- 身元確認書類
- 写真(縦3cm×横2.5cm)2枚
- 印鑑
- 本人名義の普通預金通帳
3. 7日間の「待期期間」
手続き後、7日間は誰でも失業保険が支給されない期間があります。この期間は、本当に失業状態にあるかどうかを確認するための期間です。
4. 雇用保険説明会に参加する
ハローワークから指定された日時に、説明会に参加します。ここで「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が渡されます。この説明会への参加は必須です。
5. 第1回 失業認定日
原則として4週間に一度、指定された日にハローワークへ行き、「失業認定申告書」を提出して、失業状態にあることの認定を受けます。この際、求職活動の実績(求人応募、職業相談など)が必要です。
6. 初回振込
失業認定日から、通常5営業日程度で、指定した口座に最初の失業保険が振り込まれます。(自己都合退職の場合は、ここからさらに2ヶ月の給付制限があります)
受給を最大化し、損しないための知識とテクニック
失業保険を賢く活用し、転職活動を有利に進めるためのテクニックを知っておきましょう。正しい知識があれば、受給額を最大化できます。
再就職手当を狙おう
失業保険の給付日数を3分の1以上残して、安定した職業に再就職が決まった場合、残り日数に応じた「お祝い金(再就職手当)」が支給されます。早く決まれば決まるほど、もらえる額は大きくなります。
- 支給残日数が3分の2以上:基本手当日額の70%×支給残日数
- 支給残日数が3分の1以上3分の2未満:基本手当日額の60%×支給残日数
受給中のアルバイトは「週20時間未満」が鉄則
受給中にアルバイトをすることは可能ですが、週20時間以上働くと「就職した」と見なされ、その時点で給付がストップしてしまいます。また、アルバイトをした日は、必ず失業認定申告書で正直に申告する必要があります。申告すれば、その日の分は支給されませんが、後日に繰り越されます。
不正受給は絶対NG
アルバイトの事実を隠したり、就職の意思がないのに給付を受けたりする「不正受給」が発覚した場合、給付の停止はもちろん、受け取った額の3倍の金額(三倍返し)の納付を命じられるなど、極めて重いペナルティが課せられます。
| 年齢・被保険者期間 | 自己都合(一般) | 会社都合(特定受給資格者) |
|---|---|---|
| 全年齢・1年未満 | 対象外 | 90日 |
| 全年齢・1年以上5年未満 | 90日 | 90日 |
| 全年齢・5年以上10年未満 | 90日 | 120日(45歳未満)/150日(45歳以上) |
| 全年齢・10年以上20年未満 | 120日 | 180日(45歳未満)/240日(45歳以上) |
| 全年齢・20年以上 | 150日 | 240日(45歳未満)/270日(45歳以上60歳未満)/330日(60歳以上65歳未満) |
よくある質問
- 失業保険の申請に、期限はありますか?
-
はい、あります。失業保険を受け取る権利は、原則として離職日の翌日から1年間です。病気や妊娠などで30日以上働けない期間があった場合は、その日数を延長(最大3年)できる制度もありますが、基本的には退職後、なるべく早く手続きを始めることをお勧めします。
- 失業保険の受給中に、親の扶養に入ることはできますか?
-
基本手当日額が3,612円以下(60歳未満の場合)であれば、健康保険の扶養に入ることが可能です。この金額を超えている場合は、自分で国民健康保険に加入する必要があります。
- 病気が理由で退職した場合も、失業保険はもらえますか?
-
病気やケガですぐに働けない状態の場合は、失業保険の代わりに「傷病手当」を受給できる可能性があります。また、すぐに働けなくても、働ける状態になるまで受給期間を延長できる制度もありますので、ハローワークで正直に相談してください。
まとめ:失業保険は、次へのジャンプを支える「助走期間」
失業保険は、単なる生活費の補填ではありません。それは、あなたが金銭的な不安から解放され、焦らずに自分と向き合い、次のキャリアをじっくりと考えるための、国が用意してくれた貴重な「助走期間」です。
この制度を正しく理解し、賢く活用することで、あなたの次へのジャンプは、より高く、より遠くへ飛躍するものになるはずです。まずは、あなたの管轄のハローワークの場所を調べることから、新しい一歩を始めてみませんか。
■ 公式/参考URL一覧
- ハローワーク インターネットサービス – 基本手当について
- 失業保険(基本手当)の受給資格、所定給付日数、手続きの流れなど、制度に関する最も正確で基本的な情報を参照。
- ハローワーク インターネットサービス – 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
- 「会社都合退職」に該当する具体的なケースの定義について、公的な情報を基に正確に解説するために参照。
- 厚生労働省 – 雇用保険制度
- 毎年度改定される、基本手当日額の上限額や下限額、雇用保険料率など、最新の数値を正確に記載するために参照。

