退職理由を伝える際の絶対的な正解は、「個人的で前向き、かつ会社には改善の余地がない理由」を、「感謝の言葉と共に、簡潔に伝える」ことです。「給料が安い」「人間関係が最悪」といった本音をぶつけるのは、円満退職を遠ざける最悪の選択です。この記事では、あなたが波風を立てずに、かつ上司に納得してもらいやすい「建前」としての退職理由を、そのまま使える15個の豊富な例文と共に、カテゴリ別に徹底解説します。
この記事のポイント
- ネガティブはポジティブに変換:「不満」ではなく「挑戦」や「目標」という言葉で語りましょう
- 会社の不満は禁句:会社の批判は、引き止めやトラブルの口実を与えるだけです
- 「建前」は嘘ではない:円満な人間関係を保つための、社会人としての「配慮」であり「礼儀」です
- 理由は個人的なものに:会社側が介入できない、あなたのキャリアプランやライフプランに帰着させましょう
- 感謝を忘れずに:理由の前後に「お世話になりました」という感謝の言葉を添えることで、印象が格段に良くなります
なぜ「正直な本音」を言ってはいけないのか?
- 引き止めの口実を与える:「給与を上げるから」「部署を異動させるから」と対策される
- 感情的なしこりを残す:上司や会社を批判することで関係が悪化
- 評価を下げる:「他責にする人間だ」と社会人としての評価を損なう
- 建前は戦略:お世話になった会社への敬意と自分の未来を守るコミュニケーション術
厚生労働省の調査などを見ると、実際の退職理由の上位は、常に「労働条件」「給与」「人間関係」といったネガティブなものが占めています。
しかし、これを正直に伝えてしまうと、「給与を上げるから」「部署を異動させるから」と、引き止めの口実を与えてしまいます。
さらに上司や会社を批判することになり、感情的なしこりを残す結果となり、「他責にする人間だ」と、あなたの社会人としての評価を下げてしまうといったデメリットしかありません。
円満退職のための「建前」は、決して卑怯な嘘ではありません。お世話になった会社への敬意を払い、あなた自身の未来を守るための、高度なコミュニケーション戦略なのです。
【3大原則】角が立たない退職理由の作り方
- 会社のせいにしない(自責の形をとる):「会社が〇〇してくれない」ではなく「私自身が〇〇したい」
- ポジティブな言葉で語る:「今の仕事がつまらない」ではなく「新しい〇〇に挑戦したい」
- 覆しがたい事実を根拠にする:キャリアプラン、ライフイベント、健康など個人的な領域を理由に
優れた「建前」には、共通する3つの原則があります。以下の原則を押さえれば、誰でも上司を納得させられる退職理由を作ることができます。
会社のせいにしない(自責の形をとる)
「会社が〇〇してくれない」ではなく、「私自身が〇〇したい」という、あくまで自分自身の問題として語ります。
ポジティブな言葉で語る
「今の仕事がつまらない」ではなく、「新しい〇〇に挑戦したい」という、未来に向けた前向きな言葉を選びます。
覆しがたい事実を根拠にする
「キャリアプラン」「ライフイベント」「健康」など、会社側が「それなら仕方ない」と介入・反論しにくい個人的な領域に理由を置きます。
【NG例文】これだけは言うな!一発アウトな退職理由
OK例文を見る前に、まずは絶対に避けるべきNG例文を確認しておきましょう。
NG①:給与・待遇への不満
「仕事量の割に給料が低すぎます。もっと評価してくれる会社に行きます」
なぜNGか:「給与を上げるから」と引き止められやすく、単なる不満分子だという印象を与える。
NG②:人間関係への不満
「〇〇部長のパワハラに耐えられません」
なぜNGか:たとえ事実でも、特定の個人への非難は感情的な対立を生む。退職交渉が泥沼化する原因No.1。(※ハラスメントが深刻な場合は、人事部や外部機関に相談すべきです)
NG③:会社の批判・将来性への不安
「この会社のやり方にはついていけません。将来性もないと思います」
なぜNGか:お世話になった会社を公然と批判するのは、社会人としてのマナー違反。残る人たちのモチベーションも下げる。
NG④:曖昧すぎる理由
「なんとなく、辞めようと思いまして…」
なぜNGか:「何か不満があるのか?」とあらぬ憶測を呼び、しつこく問い詰められる原因になる。
【OK例文15選】カテゴリ別・そのまま使える伝え方集
ここからは、実際に使える角の立たない退職理由を、4つのカテゴリに分けて15パターンご紹介します。自分の状況に最も近いものを選び、アレンジして使ってください。
カテゴリ1:キャリアアップ・スキルアップ(5選)
最も無難で、前向きな印象を与えられる理由です。
例文1:専門性向上
「現職で〇〇の業務に携わる中で、より専門性を高めたいという思いが強くなりました。特に△△の分野で、自分のスキルを試したいと考えており、その環境がある企業への転職を決意いたしました。」
ポイント:現職での経験を肯定しつつ、そこから発展した目標であることを伝えるのが鍵。
例文2:マネジメント挑戦
「これまでの経験を活かしつつ、今後はマネジメントの分野にも挑戦していきたいと考えております。現職ではその機会が限られているため、より大きな裁量権を持ってチームを率いる経験が積める環境へ身を移す決断をいたしました。」
ポイント:現状への不満ではなく、次のステップへの意欲を強調する。
例文3:異業種挑戦
「御社で培った〇〇のスキルを、異業種である△△の分野で活かせないかと考えております。未経験の分野への挑戦となりますので、退職という形でけじめをつけ、一から学び直す所存です。」
ポイント:異業種への挑戦は、会社側が引き止めにくい強力な理由になる。
例文4:独立準備
「将来的に独立し、〇〇の分野で自分の事業を立ち上げたいという夢があります。そのために、まずは△△の領域で実務経験を積み、経営の知識を学びたいと考えております。」
ポイント:独立という大きな目標は、上司も応援せざるを得ない理由になる。
例文5:語学・グローバル
「以前から関心のあった語学を活かし、グローバルな環境で働きたいという思いが強くなりました。海外展開をされている企業で、自分の語学力を試したく、転職を決意いたしました。」
ポイント:「語学」「海外」など、現在の職場では叶えられない具体的な目標を提示する。
カテゴリ2:家庭の事情・ライフイベント(4選)
プライベートな領域であり、会社側が踏み込みにくいため、非常に説得力のある理由になります。
例文6:結婚
「この度、結婚することになりまして、今後のライフプランを考え、パートナーと話し合った結果、働き方を見直すという結論に至りました。誠に勝手ながら、退職させていただきたく存じます。」
ポイント:結婚という事実を伝えれば、それ以上深く追求されにくい。
例文7:介護
「親の介護が必要になり、実家に戻ることを決断いたしました。すぐに対応が必要な状況のため、現職を続けることが困難であると判断いたしました。」
ポイント:家族の介護は、誰にでも起こりうる不可抗力であり、最も引き止めにくい理由の一つ。
例文8:配偶者の転勤
「配偶者の転勤が決まり、私自身も〇〇(地名)へ引っ越すことになりました。物理的に現在の職場への通勤が困難になるため、退職せざるを得ない状況です。」
ポイント:物理的な制約は、反論のしようがない強力な理由。
例文9:家業継承
「家業を継ぐことになりました。これまで会社には大変お世話になりましたが、家族の一員としての責任を果たすため、この決断をいたしました。」
ポイント:これもまた、個人的で覆しがたい強力な理由。
カテゴリ3:体調関連(3選)
非常にデリケートな理由ですが、伝え方さえ間違えなければ、スムーズに受理されます。
例文10:体調不良(詳細非開示)
「以前から少し体調が優れない時期が続いており、一度しっかりと治療に専念するため、退職を決意いたしました。具体的な病名については、プライベートなことですので、大変恐縮ですが控えさせていただけますと幸いです。」
ポイント:病名を詳しく話す義務はない。「プライベートなこと」として、一線を引く姿勢を見せる。
例文11:健康上の理由(休養重視)
「誠に勝手ながら、健康上の理由により、退職させていただきたく存じます。今後のキャリアについては、まずは体調を万全に回復させてから、改めてゆっくり考えたいと思っております。」
ポイント:転職先が決まっていないことを示唆することで、「他社に引っこ抜かれた」というネガティブな印象を避ける。
例文12:医師の勧め
「医師から、現在の働き方を見直し、少し休養を取るよう勧められました。会社の皆様にご迷惑をおかけし続けるわけにはいかないと判断し、一度職を離れる決断をいたしました。」
ポイント:「医師の判断」という客観的な事実を伝えることで、個人的な甘えではないことを強調する。
注意:体調不良を理由にする場合、会社から診断書の提出を求められる可能性があります。
本当に心身が限界な場合は、無理は禁物です。
→ [燃え尽きた心を回復させる方法〜バーンアウトから立ち直る完全ガイド〜]
カテゴリ4:その他・究極の理由(3選)
例文13:やりたいこと発見
「他にやりたいことが見つかりました。御社には大変お世話になり、心苦しいのですが、自分の気持ちに正直に、新たな道に進みたいと考えております。」
ポイント:シンプルだが、強い意志が伝わる理由。「やりたいこと」を具体的に語れるように準備しておく。
例文14:一身上の都合
「大変恐縮ですが、詳細をお伝えすることはできかねます。一身上の都合により、退職させていただきたく存じます。」
ポイント:法律上は、この理由だけで十分。しかし、円満退職を目指す上では、可能な限りもう少し具体的な理由を伝えた方が、相手の心象は良い。
例文15:キャリアリセット
「御社で多くのことを学ばせていただき、本当に感謝しております。その上で、自分のキャリアを改めて見つめ直し、一度リセットして新しい可能性を探したいという結論に至りました。」
ポイント:感謝を最大限に伝え、抽象的ではあるが前向きな姿勢を示すことで、相手の納得感を引き出す。
FAQ(よくある質問)
- 退職理由で、嘘をついてもいいのでしょうか?
-
円満退職のための「建前」は、相手を傷つけないための配慮であり、許容される範囲のものです。しかし、経歴やスキルに関する明らかな「嘘」は、後々トラブルの元になるため絶対にやめましょう。
- しつこく本当の理由を聞かれたら、どうすればいいですか?
-
「お話しできるのは、先ほどお伝えしたことが全てです」「あくまで私個人の問題ですので」と、丁寧ながらも毅然とした態度で、それ以上は話さない姿勢を貫きましょう。
- 退職理由は、上司と人事で変えてもいいですか?
-
いいえ、必ず一貫性のある理由を伝えましょう。話が異なると、不信感を持たれる原因になります。
- 転職先の面接でも、同じ「建前」の理由を話すべきですか?
-
基本的には、一貫性のあるストーリーを語るべきです。ただし、転職先の面接では、より具体的で、その企業で活躍したいという意欲に繋がるような、ポジティブな伝え方が求められます。
転職面接での退職理由の伝え方は、こちらで詳しく解説しています。
→ [ 転職面接で退職理由を聞かれた時の答え方【NG例とOK例】]
まとめ:最高の「建前」は、あなたを守る鎧になる
退職理由を伝えることは、退職プロセスにおける最大の難関の一つです。
しかし、この記事で紹介した原則と例文を参考に、あなたに合った「最高の建前」を準備すれば、何も恐れることはありません。
それは、あなたがお世話になった会社への敬意を示し、あなた自身の未来を守るための、賢明で誠実な「鎧」となるはずです。
感謝の気持ちを忘れずに、自信を持って、あなたの新しいキャリアへの第一歩を伝えてください。
■ 公式/参考URL一覧
- 厚生労働省 – 令和6年上半期雇用動向調査結果の概況:
- 転職者が実際に離職した理由の統計データを参照し、「本音の退職理由」の傾向を解説する根拠として。
- ハローワーク インターネットサービス – 職務経歴書の書き方:
- 退職理由を次のキャリアに繋げるという視点において、キャリアプランやスキルの棚卸しに関する公的な解説を参照。
- doda – 【退職理由の伝え方】円満退職に導く、上司も納得の例文集:
- 転職エージェントの視点から、どのような退職理由が「引き止められにくいか」「円満退職に繋がりやすいか」という実践的なノウハウを参照。
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