結論から申し上げます。試用期間中の退職は、法律上まったく問題なく可能です。「入社したばかりなのに…」と罪悪感を感じる必要はありません。むしろ、ミスマッチに早く気づき、早期に決断することは、あなたと会社の双方にとって、長期的に見ればプラスに働く賢明な判断です。この記事では、あなたの退職が法的に正当である根拠から、円満に辞めるための具体的な手順、そして最も気になる「その後のキャリア(履歴書・面接)への影響」と、その対策までを徹底解説します。
この記事のポイント
- 退職は完全に合法:試用期間であっても、あなたは労働者であり、民法で退職の自由が保障されています
- 早期決断は誠実さの証:「違う」と感じたまま働き続けるより、早期に軌道修正する方が、あなたと会社双方の時間を無駄にしません
- 辞めるべきサインを見極める:求人内容との著しい相違や、ハラスメント、心身の不調は、迷わず退職を検討すべき明確なサインです
- 伝え方は通常の退職と同じ:直属の上司に、1~2週間前(可能なら1ヶ月前)までに、対面で丁寧に意思を伝えましょう
- 履歴書には正直に書く:短期間でも職歴は正直に記載するのが鉄則。正直さと、前向きな退職理由で、むしろ信頼を得られます
「入社したばかりなのに…」その罪悪感と迷いの正体
- 現実の数字:大学卒業者の約3人に1人(32.3%)が3年以内に離職
- 罪悪感の原因:期待を裏切る申し訳なさ、社会的プレッシャー、将来への不安
- 合理的判断:早期退職は双方の傷を浅く済ませる誠実な決断
- 社会不適合ではない:「何か違う」と感じるのは決して珍しいことではない
厚生労働省の調査によると、大学を卒業して就職した人のうち、約3人に1人(32.3%)が3年以内にその職場を離れています。入社後すぐに「何か違う」と感じるのは、決して珍しいことでも、あなたが社会不適合者だからでもありません。
それでも私たちが罪悪感や迷いを抱いてしまうのは、「期待を裏切ってしまう」という申し訳なさ、「石の上にも三年」という社会的なプレッシャー、「次のキャリアに傷がつくのでは」という将来への不安などが原因です。
しかし、考えてみてください。サイズが合わない靴を、「新品だから」という理由で我慢して履き続けますか?無理に履き続ければ、足を痛め、靴もダメになってしまいます。
早期の退職は、あなたと会社双方の傷を浅く済ませるための、合理的で誠実な決断なのです。
あなたの決断が「逃げ」ではないことを、この記事で再確認してください。
→ [ 「仕事辞めるのは逃げ?」逃げと勇気ある決断を見極める5つの判断基準]
法的根拠:なぜ試用期間でも問題なく辞められるのか?
- 試用期間の法的性質:「解約権留保付労働契約」という位置づけ
- 労働者の地位:試用期間中でも既に正式な労働者として扱われる
- 民法第627条の適用:退職意思表示から2週間で合法的に退職可能
- 双方向の権利:会社に解約権があるように労働者にも退職の自由がある
まず、あなたの権利を正確に理解し、不安を取り除きましょう。
「試用期間」は、法律上「解約権留保付労働契約」と解釈されます。これは、「お互いのお見合い期間」のようなもので、会社側には本採用を拒否する権利(解約権)が留保されていますが、あなたも既に正式な労働者です。
したがって、労働者からの退職については、通常の退職と何ら変わりありません。
民法第627条1項:期間の定めのない雇用の当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
つまり、試用期間中であっても、退職の意思を伝えてから2週間が経過すれば、あなたは合法的に会社を辞めることができるのです。
【自己診断】その決断、待つべき?辞めるべき?5つの明確なサイン
- サイン1:求人情報と実際の労働条件・仕事内容が著しく異なる
- サイン2:パワハラ、セクハラ、いじめが横行している
- サイン3:心身に不調が現れている
- サイン4:社風や価値観が根本的に自分と合わない
- サイン5:教えてもらえない、明らかに放置されている
「もう少し頑張れば、慣れるかもしれない」と迷う気持ちもわかります。しかし、以下のような明確なサインがあれば、我慢せずに退職を検討すべきです。
✅ 1. 求人情報や面接で聞いていた話と、実際の労働条件・仕事内容が著しく異なる
(例:「残業なしと聞いていたのに、毎日3時間の残業が当たり前」「マーケティング職で入社したのに、テレアポの毎日」など)
これは契約内容の相違であり、会社側に問題があります。あなたが期待して入社した条件と大きく異なる場合、それは正当な退職理由となります。
✅ 2. パワハラ、セクハラ、いじめが横行している
人格を否定するような言動や、理不尽な要求は、あなたの尊厳を傷つけます。一日も早くその環境から離れるべきです。
ハラスメントは決して我慢すべきものではありません。あなたの心身の健康を最優先に考え、速やかに環境を変えることが重要です。
✅ 3. 心身に不調が現れている
(例:朝起きられない、涙が出る、食欲がない、頭痛が続くなど)
体が拒否反応を示しているのは、限界が近いサインです。あなたの健康以上に大切な仕事はありません。
✅ 4. 社風や価値観が、根本的に自分と合わない
仕事の進め方、コミュニケーションの取り方、倫理観など、努力では埋められない根本的なズレを感じる場合、長く働き続けるのは困難です。
✅ 5. 教えてもらえない、明らかに放置されている
新人に対して適切な教育やサポートを行うのは、会社の義務です。質問しても答えてくれない、何も仕事を与えられないといった状況は、あなたの成長を阻害します。
これらのサインが一つでも当てはまるなら、あなたの「辞めたい」という直感は、おそらく正しいでしょう。
【実践編】試用期間中に円満退職するための手順と伝え方
決意が固まったら、社会人としてのマナーを守り、円満な退職を目指しましょう。手順は、基本的には通常の退職と同じです。
直属の上司にアポイントを取る
- メールで事前連絡:「ご報告したいことがございます」と伝える
- 一対一の時間設定:プライベートな空間で話せる環境を確保
- 適切なタイミング:上司の都合を考慮した時間帯を選ぶ
メールなどで「ご報告したいことがございます」と伝え、一対一で話せる時間を設定してもらいます。突然の報告ではなく、事前にアポイントを取ることで、上司も心の準備ができ、冷静に話を聞いてもらいやすくなります。
対面で、誠実に退職の意思を伝える
「短い期間で大変申し訳ございません」というお詫びと、「皆様には大変お世話になりました」という感謝の気持ちを必ず伝えましょう。
試用期間中の退職では、特に謙虚な姿勢が重要です。会社が投資してくれた研修時間や教育コストに対する配慮を示すことで、円満な退職につながりやすくなります。
退職理由を伝える
会社の不満を言うのではなく、「実際に業務に携わってみて、自分の適性や将来のキャリアを考えた結果、別の道に進む決断をいたしました」といった、前向きで個人的な理由を伝えるのが最も角が立ちません。
具体的な切り出し方の手順
→ [ 「会社辞めたい言えない」を解決!上司への切り出し方完全マニュアル]
退職理由の例文集
→ [退職理由の伝え方【例文15選】角が立たない無難な言い方集]
退職届の提出と、引き継ぎ・備品返却
会社の指示に従い、退職届を提出します。期間が短くても、教わった業務があれば、簡単なメモを残すなど、誠実な引き継ぎを心掛けましょう。社員証や保険証などの返却も忘れずに行います。
【最重要】キャリアへの影響は?3つの注意点と対策
試用期間での退職で、最も不安なのが「その後のキャリア」でしょう。ここでは、3つの重要な注意点と、その対策を解説します。
注意点1:履歴書には正直に書くべき?
- 結論:はい、たとえ1ヶ月でも必ず正直に記載してください
- 発覚リスク:年金手帳や雇用保険の加入履歴から職歴は判明する
- 経歴詐称のリスク:隠していることが発覚すれば内定取り消しや解雇の理由になる
- 正直さがプラス評価:誠実で学習能力の高い人材として評価される可能性
年金手帳や雇用保険の加入履歴から、職歴は後から必ず判明します。隠していることが発覚すれば「経歴詐称」と見なされ、内定取り消しや解雇の理由になりかねません。
【書き方例】
令和〇年〇月 株式会社〇〇 入社
(営業部に配属)
令和〇年〇月 一身上の都合により退職
【面接での伝え方】
「前職では、〇〇という業務内容に魅力を感じて入社いたしましたが、実際に業務に携わる中で、私が本当に挑戦したいのは△△の分野であると再認識いたしました。短い期間での退職となり、大変申し訳なく思っておりますが、この経験を通じて自身のキャリアプランが明確になったと考えております。今後は、△△の分野で専門性を高め、御社に貢献したいという強い意志を持っております。」
ポイントは、「正直さ」と「学びへの転換」です。失敗を認め、それをどう未来に活かすかを語ることで、誠実で学習能力の高い人材だと評価される可能性さえあります。
注意点2:給与や社会保険はどうなる?
給与:働いた分の給与は、1日でも在籍していれば全額支払われます。これは法律で定められた権利です。
社会保険(健康保険・厚生年金):加入手続きが済んでいれば、保険料は日割りではなく月単位で計算されます。つまり、月の途中で退職しても、1ヶ月分の保険料が給与から天引きされます。
注意点3:即日退職は可能か?
原則として、民法上の「2週間前の申し出」が必要です。しかし、会社が合意してくれた場合、入社後14日以内の場合(※諸説あり、要確認)、ハラスメントなど「やむを得ない事由」がある場合には、即日退職が可能なケースもあります。ただし、トラブルを避けるためにも、まずは会社との合意を目指すのが最善です。
即日退職の法的根拠や具体的な方法については、こちらで詳しく解説しています。
→ [ 即日退職は違法?合法的に今すぐ会社を辞める方法]
FAQ(よくある質問)
- 試用期間中の退職は、転職活動で不利になりますか?
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不利になる可能性はゼロではありません。しかし、正直に事実を話し、退職理由と今後の目標を前向きに説明できれば、多くの企業は理解を示してくれます。特に、次のキャリアが明確な場合は「第二新卒」として、むしろポテンシャルを評価されることもあります。
- 会社から「損害賠償を請求する」と脅されました。
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試用期間中の労働者が退職したことで、会社が損害賠償を請求できるケースは、極めて稀です。基本的には、あなたを辞めさせないための脅し文句だと考えてよいでしょう。もし執拗に言われるようであれば、弁護士などの専門家に相談してください。
- 会社に支払った備品代などは返ってきますか?
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制服代などを給与から天引きされていた場合、その所有権などについて就業規則を確認する必要があります。不明な点は、会社の担当者か、労働基準監督署に相談しましょう。
早期離職後のキャリア戦略はこちら。
→ [【20代新卒】仕事辞めたい一年目の転職活動と第二新卒のメリット]
→ [第二新卒の転職タイミング【企業が求める人材になる方法】]
まとめ:「合わない」は、次の「合う」を見つけるための第一歩
試用期間中に「この会社は合わない」と感じることは、決して失敗ではありません。
それは、あなたが自分自身のキャリアと真剣に向き合っている証拠であり、本当に「合う」職場を見つけるための、貴重な一歩です。
罪悪感や不安を感じる必要はありません。
正しい知識を身につけ、社会人としてのマナーを守って誠実に行動すれば、あなたの早期決断は、必ず次の輝かしいキャリアへと繋がっていきます。
■ 公式/参考URL一覧
- 厚生労働省 – 新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者の状況):
- 大卒者の3年以内離職率などの客観的なデータを参照し、「早期離職は珍しくない」という事実の根拠として。
- e-Gov法令検索 – 労働契約法(平成十九年法律第百二十八号):
- 試用期間が「解約権留保付労働契約」であるという法的な位置づけを正確に解説するために参照。
- e-Gov法令検索 – 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百二十七条:
- 試用期間中であっても、通常の退職と同様に2週間前の申し出で退職が可能であることの法的根拠として参照。
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