認知症が進行すると、本人が自分の意思で終活の手続きを進めることができなくなります。家族信託や成年後見制度を事前に理解し、認知症になる前に準備を始めることが終活成功の絶対条件です。この記事では、終活アドバイザーが知っておくべき認知症×終活の実務知識を体系的に解説します。
- 認知症後は法的手続きが制限される
- 家族信託と後見制度は大きく異なる
- 終活アドバイザーは専門家の橋渡し役
認知症と終活の関係【なぜ早めの準備が必要か】
認知症と終活は切っても切れない関係にあります。厚生労働省研究班の最新推計(2024年発表)によると、2025年時点の認知症患者数は約472万人、2030年には約523万人に達するとみられています。65歳以上の約14%が該当するとされており、終活アドバイザーが現場で直面する最も多い相談のひとつが「親が認知症になってしまい、何もできない状態になった」という訴えです。認知症が進行する前に準備を整えておくことが、本人にとっても家族にとっても最善の選択となります。
認知症発症後に終活ができなくなる現実
認知症が一定程度進行すると、本人の法的な判断能力(意思能力)が失われます。意思能力がない状態では、遺言書の作成、不動産の売買契約、銀行口座の解約、家族信託契約の締結など、ほとんどの法律行為が無効とみなされます。これが「認知症発症後に終活ができなくなる現実」の核心です。
具体的には、銀行が「本人確認できない」として口座を凍結するケースが急増しています。2026年現在、金融機関の本人確認義務が厳格化されており、認知症と診断された後に大きなお金を動かすことは実質的に困難になっています。終活アドバイザーとして相談者に伝えるべき最重要事項は、「認知症が疑われる段階ではなく、元気なうちに動くこと」です。
終活アドバイザーが知っておくべき認知症の基礎
終活アドバイザーは医療の専門家ではありませんが、認知症に関する基礎知識は相談業務に不可欠です。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の3種類が主要なタイプで、それぞれ進行速度や症状が異なります。終活アドバイザーが押さえるべき重要な知識は以下の通りです。
- MCI段階では法的行為が可能
- 中等度以上で意思能力が問われる
- 医師の診断書が法的判断基準になる
- 早期発見・早期対応が終活の鍵
MCI(軽度認知障害)の段階であれば、まだ法律行為が可能な場合がほとんどです。この段階でのアドバイスが終活アドバイザーにとって最も価値を発揮するタイミングといえます。相談者が「親の物忘れが増えた」と感じた段階で、速やかに専門家へつなげる判断力が求められます。
成年後見制度の基礎知識
成年後見制度は、認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を法律的に保護するための制度です。日本では1999年の民法改正で制度が整備され、2000年4月より施行されています。2026年時点でも継続的に利用者数が増加しており、終活アドバイザーがこの制度を理解しておくことで、相談者に適切な選択肢を提示できるようになります。詳細な法改正情報については2026年の法改正情報はこちらでも確認できます。
法定後見と任意後見の違い
成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。この2つは、認知症の進行度合いと本人の意思能力の有無によって使い分けが決まります。
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 開始のタイミング | 認知症発症後(意思能力喪失後) | 認知症発症前(元気なうちに契約) |
| 手続きの主体 | 家族や本人が家庭裁判所に申立て | 本人が自ら信頼できる人と契約 |
| 後見人の選定 | 裁判所が選ぶ(弁護士等の専門家が多い) | 本人が自由に選べる |
| 後見人の権限 | 財産管理・身上保護全般 | 契約で定めた範囲内 |
| 費用(月額・参考額) | 2万〜6万円程度(専門家報酬・家庭裁判所が決定) | 1万〜3万円程度(発動後・参考額) |
| 本人の意思反映 | 困難(すでに意思能力なし) | 契約内容で明確に反映できる |
法定後見は認知症が進んでから「やむを得ず使う制度」であり、任意後見は「元気なうちに自分で準備できる制度」です。終活アドバイザーが相談者に伝えるべきは、任意後見を早めに準備することが本人の意思を守る最善策であるという点です。任意後見契約は公証役場で公正証書として作成する必要があり、弁護士または司法書士のサポートが必須となります。
終活アドバイザーの関わり方と限界
終活アドバイザーは成年後見制度について相談者に情報提供や制度の説明を行うことはできますが、後見人として活動したり、法的な手続きを代行したりすることはできません。これは終活アドバイザーが民間資格であり、法律行為の代理権を持たないためです。終活アドバイザーの関わり方は以下の範囲に限られます。
- 制度の仕組みと種類の説明
- 本人の状況に合った制度の提案
- 弁護士・司法書士・家庭裁判所への橋渡し
- 家族全体の話し合いのファシリテート
この「橋渡し」の役割こそが終活アドバイザーの最大の価値です。法律の専門知識と生活に密着したサポートの間をつなぐポジションとして、相談者から信頼を得ることができます。終活アドバイザーの法的位置づけについては終活アドバイザーの法的位置づけはこちらで詳しく解説しています。
【2026年最新】成年後見制度の大改正と終活アドバイザーへの影響
2026年1月27日、法制審議会が成年後見制度の抜本的見直しに向けた改正要綱案を取りまとめました。現行制度の施行から約25年で初めての本格的な大改正に向けた動きであり、終活アドバイザーとして最新情報を把握しておくことが不可欠です。
改正要綱案の3つの柱
今回の改正要綱案の核心は、現行の後見・保佐・補助という3類型を「補助」に一本化し、本人一人ひとりのニーズに応じて必要な支援内容・期間を選べる制度へと転換することです。主なポイントは次の通りです。
- 3類型→「補助」に一本化
- 終身制から期間限定利用へ
- 権限を必要な範囲に限定できる
- 報酬体系の透明化
終活アドバイザーが今すぐ押さえるべきこと
要綱案は2026年1月に取りまとめられましたが、法務省が民法改正案を国会に提出し、成立・施行されるまでには数年を要する見込みです。現時点では現行制度が継続して適用されます。終活アドバイザーとして相談者に「制度が変わりつつある」という情報提供は有益ですが、改正内容が確定したかのような断定的な説明は避け、最新の動向を確認するよう促すことが重要です。家族信託や任意後見の活用がより重要性を増すという方向性は変わらず、相談者への早期準備の呼びかけを続けることが有効です。
家族信託の基礎知識
家族信託は、成年後見制度と並んで認知症対策として注目される財産管理の手法です。2006年の信託法改正(施行は2007年9月)により一般の家族でも利用しやすくなり、近年は関心が急速に高まっています。成年後見制度に比べて柔軟性が高く、本人の意思を最大限反映できる点が特徴です。
家族信託とは何か・後見制度との違い
家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用を任せる契約です。委託者が認知症になった後も、受託者である家族が財産を適切に管理・活用できるため、生活費の支払い、介護費用の捻出、不動産の管理・売却なども可能になります。
成年後見制度との最大の違いは「柔軟性」と「コスト」にあります。成年後見では裁判所が選んだ後見人が財産管理を行うため、家族が望む使い方ができない場合があります。一方、家族信託では契約内容で自由に取り決めができ、受託者への報酬を無報酬にすることも可能です。その結果、長期にわたるコスト面で大きな差が出てきます。
家族信託を活用した終活設計の例
終活アドバイザーが相談者に提案できる家族信託の活用例を具体的に見ていきましょう。
【事例】75歳の田中さん(仮名)は、将来の認知症に備えて長男と家族信託契約を締結しました。自宅不動産と預貯金2,000万円を信託財産とし、長男が受託者として管理。田中さんが認知症を発症した後も、長男が介護施設の費用支払いや自宅売却を円滑に実行できました。仮に後見制度のみだった場合、自宅売却には家庭裁判所の許可が必要となり、手続きに数ヶ月を要していたでしょう。
- 不動産の管理・売却を家族が主体的に行える
- 介護費用の支払いを速やかに実行できる
- 受益者(本人)の生活を継続的に守れる
- 二次受益者(子・孫)への承継設計も可能
ただし、家族信託の設計・契約には司法書士や弁護士のサポートが必要です。費用は信託財産の規模にもよりますが、設計・登記費用で50万〜100万円程度が相場とされています。終活アドバイザーはこの「相場感覚」と「どの専門家に相談すべきか」を相談者に伝えられることが重要です。
終活アドバイザーが対応できること・できないこと
終活アドバイザーとして認知症×終活の相談に応じる際、自分ができることとできないことを明確に把握しておくことが、相談者への誠実な対応と自身を守ることの両面から不可欠です。できない領域に踏み込んでしまうと、無資格業務(非弁行為・非司行為)として法律上の問題が生じる可能性があります。仕事内容の全体像については仕事内容の詳細はこちらで確認できます。
専門家(弁護士・司法書士)への橋渡しの重要性
終活アドバイザーができることとできないことを整理すると、以下のようになります。
- 認知症・終活に関する情報提供と説明
- エンディングノート作成のサポート
- 家族会議のファシリテーション
- 適切な専門家の紹介・橋渡し
- 介護・医療・相続の相談窓口への案内
- 遺言書の作成代理・法的アドバイス(弁護士業務)
- 家族信託・任意後見の設計・作成(司法書士・弁護士業務)
- 相続税の計算・節税提案(税理士業務)
- 成年後見人・後見監督人としての活動
「橋渡し」の実効性を高めるために、終活アドバイザーは地域の弁護士・司法書士・税理士・FPとの連携ネットワークを構築しておくことが強く推奨されます。相談者がワンストップで必要な専門家にアクセスできる環境を整えることが、終活アドバイザーとしての差別化ポイントとなります。
まとめ・よくある質問

認知症と終活は、現代の高齢化社会において切り離せないテーマです。終活アドバイザーが家族信託・後見制度の基礎を理解し、相談者の状況に応じた適切な情報提供と専門家への橋渡しを行うことで、多くの家族が安心して終活を進められるようになります。2026年には成年後見制度の大改正に向けた要綱案も取りまとめられており、制度動向にも目を向けながら、自分の役割の範囲を明確に把握した上で、地域の専門家ネットワークを活かした相談支援を実践しましょう。
関連記事:終活アドバイザーの法的位置づけはこちら / 2026年の法改正情報はこちら / 仕事内容の詳細はこちら
よくある質問
- 認知症になった後でも家族信託は使えますか?
-
原則として、認知症が進行して意思能力が失われた後は家族信託の新規契約はできません。軽度の認知症(MCI段階)であれば医師の判断によって契約できる場合もありますが、確実ではありません。家族信託は元気なうちに準備することが鉄則です。認知症発症後に使える制度は、法定後見制度(成年後見)が主となります。
- 任意後見と法定後見、どちらを選ぶべきですか?
-
元気なうちに準備できるなら「任意後見」が優先です。本人が後見人を自ら選べるため、信頼できる家族や友人に任せることができます。一方、すでに認知症が進行して意思能力が失われた場合は「法定後見」しか選択肢がありません。どちらも公証役場や家庭裁判所が関わる手続きであるため、司法書士や弁護士への相談を強くお勧めします。
- 成年後見制度を利用すると、財産が凍結されますか?
-
成年後見制度を利用すると、財産管理は後見人が行います。本人が自由に使える財産は生活費の範囲に限定され、大きな財産の処分には裁判所の許可が必要になるケースもあります。「凍結」という表現は正確ではありませんが、本人が自由に使える状態ではなくなることは事実です。この点が家族信託との大きな違いのひとつです。
- 家族信託の費用はどのくらいかかりますか?
-
家族信託の設計・登記費用は、信託財産の規模や内容によって異なりますが、概ね50万〜150万円程度が相場です。また、公正証書作成費用(数万円)や不動産の信託登記費用(固定資産税評価額の0.3〜0.4%程度)も別途かかります。一方、受託者(管理する家族)への報酬は無報酬とすることが多く、長期的には成年後見制度より費用を抑えられるケースが多いです。
- 終活アドバイザーは遺言書の作成を手伝えますか?
-
終活アドバイザーは、遺言書の「必要性や種類についての説明」や「エンディングノートへの記録サポート」は行えますが、遺言書の実際の作成代行・内容への法的アドバイスは弁護士の業務領域です。無資格で遺言書作成の代行を行うと非弁行為として法律違反になる可能性があります。遺言書の作成は必ず弁護士または公証役場へつなぐようにしましょう。
- 親が「後見人なんて必要ない」と言って拒否します。どうしたらよいですか?
-
本人の意思を尊重しつつ、まずは「任意後見」の概念を柔らかく説明することが有効です。「もし将来自分で判断できなくなったとき、誰に任せたいですか?」という問いかけが入口になります。任意後見は本人が主体的に選ぶ制度であるため、拒否感が薄れる場合があります。また、エンディングノートへの記入から始めることで、終活全体への抵抗感を下げるアプローチも効果的です。
- 終活アドバイザーが認知症関連の相談を受ける際の注意点は?
-
最も重要な注意点は、専門家の業務領域を侵さないことです。法的な判断、医療的な判断は必ず各専門家(弁護士・司法書士・医師・社会福祉士等)に委ねてください。また、相談者の感情(不安・悲嘆・混乱)に寄り添いながらも、情報が錯綜しないよう事実と意見を明確に分けて伝えることが大切です。地域の地域包括支援センターや社会福祉士との連携体制を事前に構築しておくと、いざというときの対応がスムーズになります。
- 家族信託と生命保険の組み合わせは有効ですか?
-
非常に有効な組み合わせです。生命保険の死亡保険金は受取人を指定することで遺産分割の対象外になるため、家族信託で不動産・預貯金を管理しながら、生命保険で特定の相続人への資産移転を設計するケースが増えています。ただし、保険商品の選定・提案はFP(ファイナンシャルプランナー)や保険募集人の業務領域です。終活アドバイザーは「組み合わせの概念を説明し、専門家に相談を促す」役割を担います。
- 2026年の成年後見制度改正で何が変わりますか?
-
2026年1月に法制審議会が改正要綱案を取りまとめました。主な内容は、現行の後見・保佐・補助という3類型を「補助」に一本化すること、家庭裁判所の判断により制度利用を途中で終了できる仕組みの新設、必要な範囲に支援を限定できる柔軟化などです。ただし、要綱案の段階であり、法案提出・成立・施行にはさらに数年を要する見込みです。現時点では現行制度が適用されますので、正確な情報提供のために最新動向の確認を続けることが重要です。
公式/参考URL一覧
- 法務省「成年後見制度について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236.html
- 最高裁判所「成年後見関係事件の概況」https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H31_seinen_kouken/index.html
- NPO法人終活アドバイザー協会 https://shukatsu-ad.com/
- 厚労省研究班「認知症患者数推計(2024年発表)」https://doctormate.co.jp/blog/kaigonews-130
- 信託協会「信託法の歴史」https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/history/trusts_modern.html
- 弁護士JPニュース「成年後見制度大改正要綱(2026年2月)」https://www.ben54.jp/news/3223



コメント