行政書士と社労士(社会保険労務士)の違いとは、許認可など官公署提出書類を担うのが行政書士、労働・社会保険の手続きと人事労務を担うのが社労士という、企業支援の「入口」と「継続」の違いです。
この2つ、試験科目はほぼ重なりません。それでもダブルライセンスの定番と呼ばれるのは、実務の相性が抜群だからです。しかも行政書士の資格は、社労士試験の受験資格そのものになります。読み終える頃には、自分が取る順番と、2つを組み合わせた稼ぎ方の設計図まで描けるようになっているはずです。
この記事のポイント
- 試験科目はほぼ重ならない
- 実務の相性は最高クラス
- 行政書士は社労士の受験資格
- 社労士の合格率は5.5%
- 順番は目的で決める
この記事を書いた人


2013年に「ビジネス実務法務検定2級」と独学で「行政書士」試験に合格。この資格を活かし、法務やコンプライアンスの視点からも安心できる情報発信を心がけています。
行政書士と社労士の違い——「入口の士業」と「継続の士業」

両者の関係は、対立ではなく役割分担です。会社の誕生から成長までを時間軸に置くと、それぞれの持ち場がきれいに見えてきます。まずは全体図から。
行政書士は「会社を作る・始める」を支える

「別の資格なのに、名刺交換する相手は同じ」。これが両者の実像です。
行政書士の主戦場は、会社設立の書類、建設業や飲食店の営業許可、外国人の在留資格など、事業のスタートに必要な官公署提出書類です。「開業したい」という瞬間に最初に呼ばれる士業で、案件は基本的にスポット型。詳しい業務範囲は行政書士の仕事内容・独占業務にまとめています。


社労士は「人を雇う・守る」を支える
社労士の独占業務は、労働保険・社会保険の手続きと帳簿書類の作成。健康保険・厚生年金は、法人事業所なら従業員1人でも原則として強制適用、個人事業所は業種や常時使用する従業員数(原則5人以上)などで適用要件が異なります(日本年金機構の案内より)。こうした社会保険の手続きに加え、就業規則の作成、雇用関係の助成金申請、年金相談までが守備範囲です。
特徴は、雇用が続く限り仕事が続くこと。顧問契約による月額報酬が成り立ちやすい「継続型」の収益構造で、ここがスポット型の行政書士と対照的です。企業の人事・労務まわりの困りごとに、長く並走する仕事だといえます。
2025年度データで見る両試験——合格率5.5%の衝撃
難易度も比べておきましょう。2025年度の行政書士試験は受験者50,163人・合格率14.54%でした(行政書士試験研究センター・実施結果の概要)。一方、第57回(令和7年度)社労士試験は受験者43,421人・合格者2,376人で合格率5.5%(厚生労働省・第57回社会保険労務士試験の合格者発表)。前年の6.9%から大きく下がった年でした。なお、両試験は受験資格・受験者層・試験方式が異なるため、合格率の単純比較だけで難易度の優劣は決められません。
| 比較軸(2025年度) | 行政書士 | 社労士 |
|---|---|---|
| 合格率 | 14.54% | 5.5%(前年6.9%) |
| 受験者数 | 50,163人 | 43,421人 |
| 受験資格 | 不問 | 学歴・実務経験・国家試験合格等が必要 |
| 試験時期 | 11月(年1回) | 8月(年1回) |
| 合格基準 | 300点中180点の絶対評価 | 選択式・択一式+科目別基準点(年により補正) |
「社労士は行政書士より取りやすい」と言われた時代もありますが、近年は合格率だけを見れば社労士のほうが低い年が続いています(母集団が異なるため単純比較はできません)。科目別の基準点による足切りが厳しく、得意科目の貯金が使えないのが社労士試験の怖さです。侮って挑むと1点に泣きます。



社労士は「全科目で穴を作らない」試験。性格がまるで違います。
W取得の本当の価値——試験科目の重なりは小さく、実務の相性は大きい


ダブルライセンス論でいちばん誤解されているのがここです。「科目が重なるからお得」ではありません。重なるのは試験ではなく、顧客なのです。
正直な事実:試験科目はほぼ重ならない
行政書士試験の中心は民法・行政法・憲法。社労士試験は労働基準法・労災保険法・雇用保険法・健康保険法・厚生年金保険法など、労働社会保険諸法令の塊です。共通するのはごく薄い一般常識レベルで、「片方の勉強がもう片方の得点に直結する」という期待は持たないほうが安全です。
司法書士や宅建と違い、民法すら社労士試験にはほぼ出ません。学習の重なりで選ぶなら、比較先は行政書士と宅建のダブル受験のほうが素直です。それでも社労士とのW取得が定番であり続ける理由は、次の2つにあります。


理由1:行政書士の資格が「社労士の受験チケット」になる
社労士試験には受験資格が必要で、学歴(大学・短大卒等)・実務経験・指定の国家試験合格のいずれかを満たさなければなりません。そして社会保険労務士法第8条第6号は「行政書士となる資格を有する者」を受験資格として定めており、社会保険労務士試験オフィシャルサイトの受験資格コード表でも「行政書士試験に合格した者」(コード10)が挙げられています。合格していれば足り、行政書士としての登録は必要ありません(申込時に必要な証明書類や最新の要件は公式サイトでご確認ください)。
つまり、高卒などで学歴要件を満たさない人でも、行政書士に受かれば社労士への扉が開くということ。受験資格不問の行政書士だからこそ成立する、公式ルートの踏み台効果です。この一点だけでも「行政書士が先」を選ぶ理由になり得ます。
理由2:顧客が同じ——「会社の一生」を1人で受けられる
会社設立と営業許可(行政書士)を手伝った社長は、数ヶ月後に人を雇い、社会保険の手続きと就業規則(社労士)が必要になります。資格が別なら、ここで顧客は別の専門家を探さなければなりません。
W取得者なら、この流れを1人で受けられる可能性が広がります。行政書士業務が「入口」となり、社労士の顧問契約が「継続収入」に育つ——スポット型と継続型を補い合う、収益構造レベルの相性の良さが期待できる組み合わせです。ただし、資格を持つだけで顧問契約が自動的に生まれるわけではなく、これはあくまで実務上よく語られるビジネスモデルの型です(当サイトの編集上の整理)。



設立支援から顧問契約へ、という導線は実務家の間でよく語られる型です。
どちらを先に取る?——目的別の順番と学習リレー年表


順番の正解は一つではありません。学歴・目的・使える時間で分岐します。自分の条件に当てはめながら読んでみてください。
「行政書士→社労士」が王道になる3つの条件
次のいずれかに当てはまるなら、行政書士先行が合理的です。
- 学歴要件を満たしていない
- 早く独立の看板がほしい
- 法律の学習が初めて
受験資格の踏み台効果に加え、行政書士は一般に600〜1,000時間程度・1年前後が学習目安とされる(民間予備校の目安で公式統計ではありません)ため、先に開業して収入を作りながら社労士に挑む設計が組めます。民法・行政法という「法律の読み方」の基礎体力がつくので、初学者が法律学習の入口として使うにも行政書士側が向いています。必要時間の試算は行政書士の勉強時間をどうぞ。


「社労士→行政書士」や「社労士だけ」が向く人もいる
大卒で受験資格があり、人事・総務のキャリアを深めたい会社員なら、先に社労士へ行く選択も十分あります。勤務社労士という働き方があるぶん、「会社を辞めずに専門性を上げたい人」には社労士先行のほうがはまるケースが多いのです。
正直に言えば、独立予定がなく人事労務一本で行くなら、行政書士を足す必然性は高くありません。W取得はあくまで「独立して企業をまるごと支えたい人」の戦略。全員への処方箋ではない点は、はっきりお伝えしておきます。
学習リレー年表——11月の行政書士から翌8月の社労士へ
W取得を最短で狙う人向けに、試験日程のリレーを描いてみます。行政書士試験は11月、社労士試験は翌年8月。この9ヶ月の間隔が、実は絶妙なのです。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 11月 | 行政書士試験を受験 |
| 11月〜1月 | 自己採点で手応えがあれば社労士の学習を開始 |
| 1月下旬 | 行政書士 合格発表 |
| 4〜5月 | 社労士試験の受験申込(合格証等で受験資格を証明) |
| 8月 | 社労士試験を受験 |
ポイントは、合格発表を待たずに11月から社労士学習へ切り替えること。試験勉強で鍛えた「毎日机に向かう習慣」が消えないうちにリレーするのが、2年連続合格を狙う人の共通パターンです。ただし社労士約1,000時間を9ヶ月で積むのは強行軍なので、翌々年8月を本命に置く2年計画のほうが現実的な人も多いはずです。



正直、連続合格は体力勝負。習慣が残っているうちが勝負どきです。
W取得後の稼ぎ方——顧問モデルと注意点


2つ持てば自動的に年収が倍になる、わけではありません。組み合わせが効く場面と、コストや労力の現実まで含めて設計しましょう。
「入口×継続」の顧問モデル——建設業界が典型例
相性が最も分かりやすいのが建設業です。建設業許可の取得・更新(行政書士)を任された事務所が、社会保険加入や就業規則の整備(社労士)まで一括で引き受ける。許可要件と労務管理が絡み合う業界なので、両方見られる専門家は重宝されます。
外国人雇用も好例です。在留資格の申請は行政書士、雇用後の労務管理は社労士の領域。「雇いたい」から「雇い続ける」までを一気通貫で支えられる組み合わせは、人手不足時代の中小企業にとって頼れる存在になります。
見落としがちな維持コスト——2つの会費が並走する
現実的な注意点も挙げます。両資格で登録すれば、行政書士会と社労士会の登録費用・年会費が二重にかかります。行政書士側だけでも初期25〜35万円+毎年の会費(行政書士の受験・登録費用)。売上の見込みが立つ前に両方登録すると、固定費だけが先行します。


順番のセオリーは、主軸業務の資格を先に登録し、もう一方は案件がつながり始めてから。焦らないこと。資格は逃げません。
向かない人——「資格コレクション」になりそうなら一度止まる
W取得が輝くのは、使い道が決まっている人だけです。「なんとなく強そうだから」で2つ目に挑むと、約1,000時間と数十万円を投じた末に名刺の飾りが増えるだけという結果になりかねません。



2つ目の資格は「今の顧客に何を足せるか」から逆算するのが鉄則です。
まずは1つ目の資格で「誰のどんな依頼を受けたいか」を固める。司法書士との比較で考えたい方は行政書士と司法書士の違いも判断材料になります。


よくある質問


- 行政書士と社労士、どちらが難しいですか?
-
2025年度の合格率は行政書士14.54%、社労士5.5%で、数字の上では社労士が狭き門でした。社労士は科目別基準点の足切りがあり、全科目で穴を作れない点が特に厳しい要素です。
- 高卒でも社労士になれますか?
-
なれます。社労士試験には受験資格が必要ですが、「行政書士となる資格を有する者」は受験資格に該当します。学歴要件を満たさない場合、先に行政書士に合格するのが公式に認められたルートです。
- 試験科目は重なりますか?
-
ほぼ重なりません。行政書士は民法・行政法中心、社労士は労働基準法や社会保険諸法令中心で、学習内容は別物です。W取得の価値は試験の重複ではなく、顧客と業務の相性にあります。
- どちらを先に取るべきですか?
-
学歴要件がない人・早く独立したい人・法律初学者は行政書士が先。大卒で人事労務のキャリアを深めたい会社員は社労士先行も合理的です。目的から逆算して決めるのが失敗しない順番です。
- W取得すると年収は上がりますか?
-
自動的には上がりません。効果が出るのは、設立・許認可の入口業務から労務顧問の継続契約へつなげる設計を作れたときです。一方で登録費用と年会費は二重にかかるため、使い道が決まってからの取得が安全です。
- 同時に2つを勉強するのはありですか?
-
おすすめしません。科目が重ならないため負荷が単純に2倍になります。11月の行政書士試験後に社労士学習へ切り替え、翌年または翌々年の8月を狙うリレー方式が現実的です。
- 社労士の勉強時間はどれくらいですか?
-
一般に800〜1,000時間程度が目安とされ、行政書士(約800時間)と同規模かやや重い水準です。働きながらなら1年〜1年半の計画が現実的で、科目の穴を作らない反復学習が鍵になります。
まとめ|重なるのは科目ではなく、顧客


行政書士と社労士は、試験科目こそ重ならないものの、「会社の一生」という同じ顧客を入口と継続で分け合える、相性の良い組み合わせでした。行政書士の資格が社労士の受験資格になるという公式ルートも含め、順番と使い道の設計図は揃ったはずです。あとは自分の条件——学歴・目的・使える時間——を当てはめるだけ。
- 学歴不問ルートは行政書士先行
- 勤務で深めるなら社労士先行
- リレーは11月→翌8月
- 登録は主軸資格から
今日できる一歩は、社会保険労務士試験オフィシャルサイトの受験資格ページで、自分が今どの受験資格を満たしているかを確認すること。満たしていなければ、行政書士という扉から始まります。試験の全体像は行政書士完全ガイドで掴めます。


参考URL一覧
- 行政書士試験研究センター・令和7年度行政書士試験実施結果の概要:https://gyosei-shiken.or.jp/pdf/summary.pdf
- 厚生労働省・第57回社会保険労務士試験の合格者発表:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_63952.html
- 社会保険労務士試験オフィシャルサイト・受験資格について:https://www.sharosi-siken.or.jp/exam/
- スタディング・第57回(令和7年度)社会保険労務士試験の合格発表:https://studying.jp/sharoushi/about-more/goukakuhappyou.html
- 伊藤塾・社労士試験の受験資格とは?:https://column.itojuku.co.jp/sharosi/basic/jukenshikaku/




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