50代の転職で「金銭的な損益分岐点」を見極めるには、目先の年収だけでなく、①自己都合退職による退職金減額幅、②転職後の60歳以降の雇用条件(定年延長の有無)、③2025年改正の「高年齢雇用継続給付」縮小の3点をセットで計算する必要があります。シミュレーション上、一時的に年収が下がっても、「65歳定年・70歳再雇用」の企業へ転職し、厚生年金に長く加入し続けることが、80代以降も含めた生涯収支(LTV)を最大化する最強の戦略となります。
この記事のポイント
- 自己都合で10-30%減額
- 2025年給付率10%に縮小
- iDeCo重複期間9年延長
- 長く細く稼ぐ環境へ
- 無職半年でアドバンテージ消滅
「今の会社は嫌だ。でも、辞めたら老後はどうなる?」「退職金が減るのは怖い。でも、精神的にもう限界だ」
50代の転職は、20代・30代のそれとは全く意味合いが異なります。それは単なるキャリアチェンジではなく、「老後資金の確定作業」であり、「人生のバランスシートの組み替え」だからです。
感情だけで動くと、数百万円単位で損をする可能性があります。逆に、正しい知識を持って動けば、一時的に年収が下がっても、生涯の手取り額を増やすことは十分に可能です。
この記事では、「キャリアのファイナンシャルプランナー」として、50代が直面する「退職金」「年金」「税制改正」の複雑なパズルを解き明かし、あなたの人生の損益分岐点をシミュレーションします。電卓を用意して、冷静に読み進めてください。
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転職で失う「見えないお金」の正体。退職金・企業年金の減額ルールを直視せよ
結論:見えにくいコストを把握する
- 自己都合で10-30%減額
- ポイント制の傾斜配分
- 企業型DCマッチングロス
- 就業規則を確認せよ
まず直視すべきは、転職によって失う(かもしれない)お金です。「年収」は求人票で見えますが、「退職金」の減少は見えにくいコストです。

「自己都合退職」の減額ペナルティ
相場として10-30%減額
- 係数0.7-0.9を掛ける
- 定年比で10-30%減額
- 2000万が1400万に
- 600万円の損失
多くの企業の退職金規定には、「自己都合による退職の場合、支給額に係数(0.7〜0.9など)を掛ける」という条項があります。相場としては、定年まで勤め上げた場合に比べて10%〜30%程度減額されるケースが一般的です。
例えば、定年なら2,000万円もらえるはずが、53歳で辞めると1,400万円になるかもしれません。この「600万円の損失」を、転職後の給与アップや精神的安定で回収できるか?これが最初の問いです。
「ポイント制」退職金の落とし穴
最近主流の「ポイント制退職金」では、勤続年数や役職ランクに応じてポイントが貯まります。注意すべきは、多くの企業で「勤続20年以上」「50歳以上」などでポイント付与率が跳ね上がる(傾斜配分)設計になっていることです。
あと1年いれば退職金が200万増えたのに……というケースもザラにあります。転職を決断する前に、総務規定をこっそり確認し、「自分の退職金が一番伸びるタイミング」を把握してください。
企業型DC(確定拠出年金)のマッチングロス
実質的な年収ダウン
転職先に企業型DCがない場合、個人型(iDeCo)に移管することになりますが、これまで会社が払ってくれていた掛金(月額数万円)がなくなります。これも実質的な「年収ダウン」の一部として計算に入れる必要があります。
年収ダウンは怖くない? 厚生年金と「高年齢雇用継続給付」の2025年改正ショック
結論:年金への影響は限定的だが制度改正に注意
- 厚生年金は平均で決まる
- 月額減少は数千円程度
- 2025年給付率10%に縮小
- 再雇用モデルの旨味減少
次に、年金の話です。「転職して年収が下がると、将来の年金も減るのでは?」その通りですが、その影響度はあなたが思うほど大きくないかもしれません。
厚生年金は「平均」で決まる
影響は限定的
厚生年金の受給額は、全加入期間の「平均標準報酬月額」で決まります。例えば、これまで30年間高年収(平均600万円)で働いてきた人が、ラスト10年を年収400万円で働いたとしても、全体の平均への影響は限定的です。
試算では、年収が200万円下がった状態で10年働いても、将来の年金受給額の減少は月額数千円〜1万円程度に収まるケースが多いです。「年金が減るから」といって、ブラックな現職にしがみつく必要はありません。
【悲報】2025年4月、高年齢雇用継続給付が縮小
ここが最大の注意点です。これまでは、60歳以降に再雇用などで賃金が下がった場合(60歳時点の75%未満)、国から「高年齢雇用継続給付」として、賃金の最大15%が補填されていました。
しかし、法改正により2025年4月以降、この給付率の上限が10%に引き下げられます(将来的には廃止予定)。つまり、「今の会社で60歳定年を迎え、再雇用でぬくぬく過ごす」というモデル自体の旨味が、急速に薄れているのです。
【徹底シミュレーション】53歳・年収800万円のAさんが選ぶべき「3つの道」
結論:長く働ける環境が生涯賃金を最大化
- 現状維持は9600万円
- 早期退職は8000万円
- 戦略的転職は8200万円
- 70歳まで見れば逆転
では、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
モデル:Aさん(53歳男性、大手メーカー勤務、現在の年収800万円)
| シナリオ | 内訳 | 総獲得額(53-65歳) | 評価 |
|---|---|---|---|
| ①現状維持 定年までしがみつき、再雇用 | ・53〜60歳: 年収800万×7年=5,600万円 ・退職金: 2,000万円(満額) ・60〜65歳: 再雇用で年収400万(給付金込み)×5年=2,000万円 ・65歳〜: 引退 | 9,600万円 | リスク: 役職定年によるモチベーション低下、60歳以降の給与激減 |
| ②早期退職 割増退職金をもらい、中小企業へ | ・退職金: 2,000万+割増500万=2,500万円 ・54〜65歳: 中小企業に転職(年収500万)×11年=5,500万円 | 8,000万円 | 総額では①に劣るが、精神的自由と「70歳まで働けるスキル」が手に入るなら、1,600万円の差は「必要経費」 |
| ③戦略的転職 「65歳定年」の会社へ転職 | ・退職金: 自己都合で減額=1,600万円 ・54〜65歳: 定年65歳の会社へ転職(年収600万)×11年=6,600万円 | 8,200万円 | 60歳で給与が下がらない会社を選べば、①との差はかなり縮まる。70歳まで働けば生涯賃金は逆転する |
結論:「60歳までの年収」で見れば、今の会社に残るのが最強です。しかし、「70歳、80歳までの人生」を考えた時、シナリオ①は65歳で崖から落ちるように収入が途絶えます。
シナリオ③のように、少し年収を下げてでも「長く働ける環境」に移ることが、長寿時代のリスクヘッジとして最も合理的です。
【関連記事】
50代・独身女性のキャリアの終着点|おひとりさまが安心して65歳まで働ける会社選びの最終チェックリスト
退職金貧乏にならないための「出口戦略」。税制改正の落とし穴
結論:税制改正に警戒せよ
- 5年ルールから19年へ延長
- iDeCoを先に受け取る
- 年金形式も選択肢
- 数十万円単位で税金増
退職金を受け取る際にも、大きな罠が待っています。特にiDeCo(個人型確定拠出年金)をやっている人は要注意です。
2025年以降の「退職所得控除」ルール変更に警戒せよ
間隔を19年に延長検討中
これまで、「退職金」と「iDeCo」を両方受け取る場合、「受け取る間隔を5年以上空ければ、どちらも税金の控除(退職所得控除)を満額使える」という裏技(5年ルール)がありました。
しかし、2025年度の税制改正議論において、この間隔を「19年(または9年)」に延長し、重複利用を制限しようとする動きがあります。
対策:これからiDeCoを受け取る予定の人は、「退職金よりも先にiDeCoを一時金で受け取る」か、あるいは「iDeCoを年金形式で受け取る」などの対策が必要になります。
「退職金で住宅ローン完済」などを計画している人は、最新の税制改正情報を必ずチェックしてください。ここを間違えると、数十万円〜百万円単位で税金が増えます。
失業保険は「もらう」が正解とは限らない
「退職して失業保険をもらってから、ゆっくり探そう」これは危険です。自己都合退職の場合、給付制限(2ヶ月程度)があります。また、無職期間(ブランク)が半年を超えると、50代の再就職率は激減します。
「在職中に次を決めて、失業保険をもらわずに転職する」のが、キャリアの価値を下げない最善手です。(※ただし、再就職手当として数十万円もらえる制度は活用しましょう)
お金だけじゃない。「精神的資産」も含めたトータルバランスシート
結論:健康が最大の節約
- 差額は医療費と思い出代
- 50代の体は無理が効かない
- 一度壊せば治療費で消える
- 健康リスクを計算に入れる
ここまでお金の話をしてきましたが、最後に伝えたいのは「見えない資産」の話です。
今の会社で、ストレスで胃に穴を開けそうになりながら800万円もらう生活。転職して、家族と夕食を食べられる600万円の生活。
差額の200万円は、「医療費(将来の入院リスク)」と「家族との思い出代」だと考えてみてください。50代の体は、無理が効きません。一度メンタルや体を壊してしまえば、治療費で貯金は消え、再就職もできなくなります。
「健康」こそが、最大の節約であり、最大の投資です。損益分岐点の計算式には、必ず「健康リスク」というマイナス係数を入れて判断してください。
まとめ:電卓を叩いた後に、もう一度「心」に問う

50代の転職とお金の問題。正解は一つではありません。「退職金を満額もらうために、あと数年、歯を食いしばって耐える」のも一つの立派な戦略です。「お金は減ってもいいから、新しい世界で自分を試したい」というのも、素晴らしい決断です。
大切なのは、「知らずに損をした」という事態を避けること。そして、数字のリスクを全て把握した上で、「それでも私はこれを選ぶ」と自分で決めることです。
あなたが電卓を叩いて出した答えは、あなただけの「人生の経営戦略」です。自信を持って、その道を進んでください。
次のアクション:お金の次は「身なり」を整える
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よくある質問
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参考URL一覧
- 厚生労働省: 高年齢雇用継続給付の支給率変更について(2025年4月〜)
- 国税庁: 退職金と税金(退職所得)
- 日本年金機構: 年金の繰り下げ受給
- iDeCo公式サイト:
- ハローワークインターネットサービス: 雇用保険の給付(基本手当)

